特別展
「異文化は共鳴するのか? 大原コレクションでひらく近代への扉」
記念シンポジウム
美術交流と異文化の共鳴
西洋/日本を中心に
日時: 2024年9月15日(日) 10:00~17:15
定員: 500名 (オンライン参加)
参加費:無料
事前申込が必要。先着順の受付とさせていただきます。
上記の申込用URLより、必要事項をご記入のうえお申込みください。
※後日、ダイジェスト版の動画公開を予定しております。当日、視聴の方には、改めてそのご案内もさせていただきます。
主催: 公益財団法人大原芸術財団 大原芸術研究所・大原美術館
後援: 美術史学会
日仏美術学会
明治美術学会
大原美術館後援会
公益財団法人大原芸術財団は、2024年9月23日(月・振休)まで開催中の特別展「異文化は共鳴するのか? 大原コレクションでひらく近代への扉」を記念して、オンライン公開でのシンポジウムを開催いたします。
展覧会担当者2名より企画意図を発表。その後、3名のゲストが、日本と西洋の美術の相関について独自の視点から発表を行います。
これらを踏まえ、最後には、本展のキュレーションを統括した三浦篤大原美術館館長を進行役として全5名の発表者が登壇の上、総合討議を行います。
※展覧会の詳細はこちらをご覧ください。 https://project.ohara.or.jp/specialexhibition
<プログラム>
10:00~10:05
開会挨拶
高階秀爾(大原芸術財団 大原芸術研究所所長)
10:05~10:15
司会挨拶と趣旨説明
三浦篤(大原芸術財団 大原美術館館長)
10:15~10:45
発表1 特別展第1章「児島虎次郎、文化の越境者」について
吉川あゆみ(大原芸術財団 研究部上席研究員)
10:50~11:20
発表2 特別展第2章「西洋と日本―西洋美術と日本近代美術の交差」について
孝岡睦子(大原芸術財団 研究部部長)
11:25~11:45
質疑応答
12:55~13:00
司会挨拶
柳沢秀行(大原芸術財団 財団本部付シニアアドバイザー)
13:00~13:50
発表3 異文化を見る複数の眼差し――アフリカ・オセアニア美術と西洋20世紀美術
田中正之(国立西洋美術館 館長)
14:00~14:50
発表4 「共鳴」と「影響」はどうちがう? 近代日本美術の評価をめぐって
大谷省吾(東京国立近代美術館 副館長)
15:00~15:50
発表5 前衛とスタンダード-The Museum of Modern Art の1世紀と、日本の美術館の「西洋/日本」コレクション
岡部昌幸(群馬県立近代美術館 特別館長)
16:00~17:15
総合討議
全発表者、司会三浦篤
<発表要旨>
特別展第1章「児島虎次郎、文化の越境者」について 吉川あゆみ
洋画家児島虎次郎は、ヨーロッパ近代絵画を招来し大原美術館誕生のきっかけをつくったことで知られるが、彼が関心を持ったのはヨーロッパ文化だけではない。広く東西を旅し、古文化を敬愛した児島は、世界各地の文化を体験としてだけでなく、“モノ”としても持ち帰り、自らの創作活動に取り込んでいった。特別展「異文化は共鳴するのか?」第1章の展示に沿って児島の異文化体験を振り返り、その作品にあらわれた多文化の混交を確認する。
特別展第2章「西洋と日本―西洋美術と日本近代美術の交差」について 孝岡睦子
二本以上の線状のものが、ある一点で交わること。また、互い違いになること —この「交差」をキーワードに近代の西洋/日本の美術をとらえようとする特別展第2章の展示は、文字通り複数の文化が入り混じることで立ち現れる「交わり」の空間となっている。それはまた、西洋美術とともに洋画家児島虎次郎の絵画を公開すべく誕生した大原美術館という場そのものでもあろう。このような美術館で形成されてきたコレクションから西洋美術と日本近代美術の交わりを具体的に提示することで、両者の共鳴の多様性について考えたい。
「異文化を見る複数の眼差し――アフリカ・オセアニア美術と西洋20世紀美術」 田中正之
西洋においては、非西洋圏の文化や造形との接触が、主題と造形の両面においてたびたび大きな変化をもたらし、歴史的にはシノワズリー、オリエンタリズム、ジャポニスムなどと呼ばれてきた。しかし、20世紀初頭のアフリカやオセアニアの文化との出会いが「プリミティヴィズム」と名付けけられたことには大きな問題がはらまれており、それはアフリカやオセアニアの人々は文明を知らない「野蛮」な存在だと西洋の人々がみなしていたことを示している。西洋がアフリカ・オセアニアに向けた「眼差し」(ここでは単に「見方」のことではなく、「見るもの」と「見られるもの」との権力関係を含んだ、歴史的・社会的に条件づけられ構築された認識のあり方をいう)をめぐって、エミール・ノルデとパブロ・ピカソの作品を中心に、彼らの作品が、いかに「欲望の眼差し」や「恐怖の眼差し」といった複数の眼差しと関わりあっていたかについて論じる
「共鳴」と「影響」はどうちがう? 近代日本美術の評価をめぐって 大谷省吾
ともすれば西洋美術の形式的模倣と片付けられがちな近代日本美術。そこに影響関係があることはまぎれもない事実だが、西洋美術を評価の基準として、それをどれだけ理解したかという尺度で近代日本美術を眺めてみても、ネガティブな評価しか導きだせない。逆に、受容した近代日本の美術家たちの視点に立ち、彼らが当時、どのような問題意識、モチベーションをもって制作していたのか、その問題を解決するために、西洋の美術から何を選び取り、また何を選び取らなかったのか(どの部分に「共鳴」し、どの部分には「共鳴」しなかったのか)という視点から個々の作品を見てみよう。そうすると、これまで西洋美術の模倣と思い込んでいた作品が、別の輝きをおびて見えてくるにちがいない。具体的には黒田清輝《湖畔》(1897)、萬鉄五郎《裸体美人》(1912)、高村光太郎《手》(1918)、岡本唐貴《制作》(1924)の4点を中心に取り上げ、作品の「読み直し」を提案する。
前衛とスタンダード-The Museum of Modern Art の1世紀と、日本の美術館の「西洋/日本」コレクション 岡部昌幸
日本の美術館では、西洋の近代美術コレクションとともに、日本近代美術のコレクションを形成した館が多く、大原美術館はその先駆で、地方の自治体設置の美術館も同様である。少なくとも展示においては、西洋と日本近代美術は、楽器に張られた二本の弦のように共鳴し、響き合う。Modern Artというコレクションと展示という枠組みが、いわば予定調和するスタンダードを確定させた。西洋と日本の近代美術には、成立時に大きなタイムラグと距離差があったが、海外からの来朝者と留学帰朝者による伝播、そして出版による情報共有などにより、日本においても、ほぼ同時代性を保つことができた。そして美術館の役割が、その概念を社会に広めたといえよう。その原点は、約100年前にニューヨークで構想されたThe Museum of Modern Artが、モダンアートの枠組みを作り出し、その普及のために、系譜によるコレクション形成と、メッセージ性の強い前衛的な企画展を活発化したことだっただろう。共鳴するように構成されていった過程を振り返り、いったい何に共鳴したのかを考えてみたい。
<外部講師 略歴>
田中正之 (国立西洋美術館 館長)
1990年東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。1990-95年、ニューヨーク大学美術研究所に学ぶ。1996年より国立西洋美術館研究員、「マティス展」(2004)、「ムンク展」(2007)などを担当。2007年より武蔵野美術大学造形学部准教授、2009年に教授となる。2021年より現職、2023年には「キュビスム展―美の革命」の企画・監修にあたった。
大谷省吾 (東京国立近代美術館 副館長)
1994年筑波大学大学院芸術学研究科博士課程中退。同年より東京国立近代美術館研究員。博士(芸術学)。東京国立近代美術館では「地平線の夢 昭和10年代の幻想絵画」展(2003)など多くの企画展を担当。2004年倫雅美術奨励賞受賞。2016年より同館美術課長、2022年から現職。
岡部昌幸(群馬県立近代美術館 特別館長)
早稲田大学大学院文学研究科芸術学(美術史)専攻博士前期課程修了。横浜市美術館準備室学芸員、東京都庭園美術館専門調査員等をへて、帝京大学勤務。大学院文学研究科日本史・文化財学専攻教授(美術史)を経て2023年より名誉教授。2017年、群馬県立近代美術館館長に就任、2020年より特別館長。日本フェノロサ学会会長、東御市梅野記念絵画館館長等を兼務。